精進料理のはなし
精進料理とは、一言でいえば肉や魚などの「なまぐさ」を使わない料理です。しかし野菜ばかりの質素なものかと思いきや、塗の御膳にたくさんの品々が並び、見た目にも豪華です。高野山の精進料理のルーツは「振舞料理」なのです。平安時代から皇族や大名の参詣をはじめ、全国から参拝に来られる檀信徒に対して、ようこそお越しくださいました、という気持ちを込めて料理をお出しする、その伝統が脈々と受け継がれた料理です。
ちなみにお客様にお出しする振舞料理と、修行僧などが食する料理とは全く別の物です。
高野町では一般的に、精進料理の基本は五味・五法・五色と言われます。五味は醤油、酢、塩、砂糖、辛み。五法は生のまま、煮る、焼く、揚げる、蒸す。五色は五つの色合い、つまり見た目に鮮やかに盛り付ける、という意味です。
さらに高野山に独特なのは、「五禁」といって使ってはいけない食材が決められていることです。ねぎ、らっきょう、にら、にんにく、しょうがといった、においの強い野菜は使いません。
ところで高野山は山上の限られた土地にあるため、田畑がありません。そのため、精進料理に必要な野菜などは、かつて高野山周辺の農村の人々が奥之院などにお供えしていた食材を各寺院に分配することで賄っていました。このいとなみは、平成の初めごろまで続いていました。そのような食材ですから、大切に調理しいただこうという気持ちが、おのずと湧き上がってきます。まさに、人々の信仰心によって支えられてきた食文化なのです。